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米メディア大手バイアコムは昨年、業績不振にあえぐ傘下のパラマウント・ピクチャーズ再生のために、大物プロデューサーのブラッド・グレイを会長兼CEO に迎え入れた。その際バイアコムは、グレイがいかにハリウッドのクリエーターたちと太いパイプを持っているか、さかんに強調していた。

クリエーターたちとつながりが強い。これはパラマウントのトップにとって大事な経歴と思われた。パラマウントはハリウッド最古参の映画スタジオでありながら、バイアコムにとって最大の悩みの種。かつ経営陣が慎重すぎて、業界のトップクリエーターたちが意欲的に仕事できるような環境ではなかったからだ。

それゆえに、バイアコムのサムナー・レッドストーン会長がこのほどハリウッド最大級のスター、トム・クルーズを公然と批判したことは、グレイ氏にとっては特にショックだったのではないか。

というのもグレイ氏はこれまで、トム・クルーズ氏の体面を保った形で関係を終わらせる方法を模索してきたからだ。パラマウントは過去14年間、クルーズ氏に莫大な出演料のほかに、年間1000万ドルを支払ってきたが、この関係はもうこれ以上は維持できないというのは、すでに同社の決定事項だった。

しかしそこにレッドストーン会長が登場。数々のインタビューを通じて、事態を一変させた。カップルの破局を題材にしたありきたりなハリウッド映画で終わるはずの物語を、会長は一気に「タイタニック」級の超話題作に変身させたのだ。会長は同時に、華やかな映画界の水面下で、経済の仕組みがどう変化しつつあるのか、衆目の前にさらけだしてしまった。レッドストーン会長は、パラマウントがトム・クルーズ氏との関係を打ち切ることにしたと言うだけでなく、その理由はクルーズ氏本人の突飛な行動(宗教団体サイエントロジー教会を公然と支持したことなど)のせいで、出演作の興行収入が減り続けたからだと指摘。「クリエーターとしての自殺行為を実践し、会社の収益を損なうような人物は、社内にいるべきではない」と会長は言明したのだ。

メディア王がここまであけすけに語ったことに、ハリウッドは一様に愕然とした。大スターを公然と批判するのは、神聖な掟を破ること——といわんばかりの驚愕ぶりだった。

しかしウォール街はレッドストーン発言を歓迎した。というのも財界アナリストたちはメディア各社に対して、経費を抑制するよう繰り返し求めてきたからだ。何年にもわたり製作費を右肩上がりに高騰させてきた映画界は今や、DVD売上の低迷や海賊版の横行からくる損失拡大、インターネットやテレビゲームとの競争激化などに苦しんでいる。そしてそれゆえに財界はメディア各社の財務状況を厳しく精査し、なかでも映画会社の経費削減を強く求めてきたのだ。

「会社がどういう状況になっているのか、映画スタジオは今まで以上に厳密に検討する必要が生じた」。メディア調査会社マクアルパイン・アンド・アソシエーツのデニス・マクアルパイン氏は指摘する。「映画会社は映画を作りたいから映画を作ってるわけじゃない。映画を作る目的は金をもうけることだ」 金もうけのための映画作りという意味では、クルーズ氏はかつて、大もうけほぼ間違いなしの確実な投資対象だった。これまでの映画7本はそれぞれ興行収入1億ドル以上を確実に稼ぎ、トム・クルーズ氏は業界トップのドル箱スターという評価を欲しいままにしていた。

しかしトム・クルーズ氏の成功に必要な費用がパラマウントにとって重い負担となっていった。客を呼べるスターとしてトム・クルーズ氏は、至れり尽くせりの契約を映画会社と結び、さらには、ハリウッド俳優でもごくごく一部にしか与えられない破格の待遇を獲得。いわゆる「20-20」クラブの一員となったわけだ。「20- 20」とはつまり、出演料としてまず2000万ドルが約束され、かつ興行収入の20パーセントを成功報酬としてもらえる、ハリウッドスターの中でも限られたスターの中のスターという地位のことだ。

消息筋によると、この「20-20」に類する取り決めのおかげで、トム・クルーズ氏は「ミッション・インポッシブル3(M:i:III)」1本で約8000万ドルを稼いだはずだと言われている。そしてその分だけ、パラマウント側の収益が目減りしたわけだ。

「M:i:III」の全世界興行収入は4億ドル近く。決して赤字でも何でもないのだが、期待を下回ったのは確かだった。興行収入情報サイトBox Office Mojoのグレイ氏は「(クルーズ・パラマウント契約関係について)得ている情報から判断すると、『M:i:III』が収益を出さなかった最大の理由は、クルーズ氏の取り分が大きかったからだ」と話す。「映画会社の損益がトントンとなるか、8000万ドルの赤字を出すかどうかの違いは、トム・クルーズの存在だ」

パラマウントにとって、トム・クルーズ氏とのこうした関係がますます受け入れがたくなった理由はほかにもある。それは彼の奇行ともいえるふるまいだ。クルーズ氏はそれまで、きっちり管理されたPR戦略で自分の世間的イメージをずっとコントロールしてきた。しかし昨年になってクルーズ氏は次第に、自分が信奉する宗教「サイエントロジー」についてさかんに発言するようになった。あるいは、オプラ・ウィンフリーの人気トーク番組でいきなりソファに飛び乗って叫びだした。あるいは俳優仲間のブルック・シールズが抗うつ剤治療を受けていたことについて、テレビ番組で公然と批判した。こうした行為はいずれも、クルーズ氏の人気低下につながった。

「それでも、まだトム・クルーズで金もうけができるとパラマウントが判断していたら、手放したりはしなかったはずだ」 映画業界の財務状況に詳しく「Movie Money: Understanding Hollywood's (Creative) Accounting Practices(映画マネー:ハリウッドの(創造的)会計慣習を理解するために)」という著作もある弁護士ビル・ダニエルズ氏はこう指摘する。

クルーズ氏は今、我が道を行こうとしている。パラマウントとの破局後、クルーズ氏の製作会社「クルーズ・ワグナー」は、独立した映画製作会社の設立にすでにヘッジファンド2社から計1億ドルの資金提供を予定していると発表した。しかしその2社の正体についてはまだ明らかにされていない。

今のハリウッドでは、製作費が削減されると同時に、ヘッジファンド資金が流れ込んでいるのが現状だ。だとしても、トム・クルーズ氏に投資するのはどうなのか、複数のアナリストが首を傾げた。クルーズ氏とヘッジファンドが何をどう合意したのか詳細は不明だが、発表されている資本1億ドルという額では、投資リスクを分散させられるほどの映画本数をまかなえないという指摘がある。さらにクルーズ氏の観客動員力にもかげりが見えるという。

「1億ドルもってラスベガスに行って、ルーレットの赤25だけに全額はったりするだろうか? あまり賢いやり方とは思えない」と話すのは、ヘッジファンドと映画製作の案件をいくつか扱ってきた法律事務所ギブソン・ダンのパートナー、ラリー・ウルマン氏。

パラマウントにとっても、未来は不透明だ。今年に入ってドリームワークスを16億ドルで買収したものの、買収後の業務統合はかなりややこしいことになっている。パラマウント再生を指揮するために投入されたはずのグレイ氏は、雇い主のレッドストーン会長にすっかりお株を奪われてしまったとする見方も多い。ある映画会社の重役は「今の事態を見て、才能あるクリエーターたちは『誰が指揮を執ってるのか』と疑問に感じている」と批判する。

レッドストーン会長の発言に反発した映画関係者は多かった。それでもなおパラマウントのグレイ氏は、クルーズ氏不在の大きな穴を埋めるため、代わりの俳優を探さなくてはならないし、このチャンスに自分こそがとパラマウントにアプローチする俳優は後を絶たないだろう。

とはいえ、映画を観客に見せる形として、インターネットなど新しい配給方法が次々と登場するなか、ハリウッドの従来のビジネス・モデルは様々な挑戦にさらされている。そしてそういう状況の中で起きた今回のクルーズ対パラマウントの破局劇は、業界が行く先の見えない不安定で新しい時代に突入したことを再確認する材料となった。

弁護士のダニエルズ氏はトム・クルーズとパラマウントの破局について、「映画業界を根底から変えてしまうような大きな変化がこれから起きるのだという、その最初の兆候なのかもしれない」と指摘している。(フィナンシャル・タイムズ 2006年8月25日初出) ジョシュア・チェイフィンとマシュー・ガラハン
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